Farsighted Exploration
Critical Illness
全身におけるHIVウイルス量の可視化に世界で初めて成功
全身におけるHIVウイルス量の可視化に世界で初めて成功
人体内部を見る “ハッブル望遠鏡” が、HIV研究の新たな窓を開きました。
2021年12月22日
2021年12月22日
Farsighted Exploration
Critical Illness
Trace for 40 Years
2020年、University of California, San Francisco とUniversity of California, Davis の複数の研究者が、分子イメージング装置でHIVを追跡するという珍しい実験を行いました。そのとき、ヒトで最初のエイズ患者が公式に報告されてから40年が経過していました。
HIVのウイルス量、すなわち血液中のHIVの量は、エイズの診断や治療の重要な基礎となります。その測定方法として最も一般的に用いられているのが、血液検査です。しかし、血液検査にはしきい値があります。ウイルス量がしきい値より低いと、ウイルスは検出されません。また、血液検査では、体内のウイルス分布を把握することはできません。補助的な検査方法として、より感度の高いリンパ節生検がありますが、被検者の局所組織を採取することが多く、全身性の疾患であるHIVは、採取していない組織に潜んでいる可能性が非常に高いです。
根絶できないウイルスは “時限爆弾”のようなものです。常に大量に複製し続けるタイミングをうかがい、潜伏期間は数十年にも及びます。そのため、人類は40年間もHIVと戦い続けてきました。エイズ患者さまが治癒した例は偶然にしかなく、治癒と認められた例は今のところ世界で2例しかありません。
The Visualization of HIV Viral Load in the Whole Body for the First Time
従来の検査法に限界が生じたとき、人体を分子レベルで可視化する分子イメージング装置が新たな選択肢を提供します。
分子イメージング装置は数十年前から存在していましたが、HIVのトレーサーがなく、患者さまの全身のウイルスを高精細に撮影するには装置の性能が十分でないため、HIVの臨床検査にはまだ適用されていませんでした。2019年、University of California, Davis は、世界初のTotal-body PET/CTであるuEXPLORER®を導入しました。この装置は、軸方向視野を従来の15cmから画期的な2mに拡大し、感度を40倍に向上させました。1回のベッドポジションで頭からつま先までの全身スキャンを初めて実現し、従来のPET検査時間20分を1/40に短縮した。また、撮影時間を9半減期まで延長し、薬剤投与量の1/40~1/50の超低線量撮影に対応しました。その結果、人体内部を観察できる「ハッブル望遠鏡」と呼ばれ、HIV研究に新たな窓を開くことになりました。
今回の実験では、新しいタイプの抗体トレーサーである89Zr-VRC01を使用しました。VRC01は、HIVに正確に結合することができる広域のHIV抗体です。この抗体の標識に使われた89Zrは、あたかもウイルス1個1個に小さなランプを点灯させるように働きます。この小さなランプをPET/CTで正確にとらえることができます。抗体トレーサーは、薬剤を体内に注入してから72時間後にウイルスと完全に結合しました。そして、10年間抗レトロウイルス療法(ART)を受けてきた患者さまに、全身PET/CTをuEXPLORERでスキャンしました。すると、これまで見たことのない新しい画像が研究者の前に初めて現れたのです。身体のさまざまな部位にHIVが分布していることを、肉眼で直接、はっきりと見ることができました。つまり、この方法でHIVに感染している部位を特定し、ウイルス量を評価することができるようになったのです。この装置は、エイズの臨床治療や科学研究に活用される大きな可能性があります。
Endless Possibilities of the Total-body PET/CT uEXPLORER
University of California, Davis と University of California, San Franciscoでは、現在もHIVの研究が続けられています。より大規模な臨床試験はまだこれからです。
さらに、無限の研究スペースが開かれています。例えば、免疫療法、陽子線治療、重粒子線治療、細胞治療などの最先端の高度個別化臨床治療法では、全身PET/CTが最も正確な方法と最も低い放射線量で個別化治療効果の長期追跡と検証を可能にします。脳科学研究の面では、人体の各器官間の神経接続を直接示すことができるため、脳と身体器官の相互作用の理解に役立ち、うつ病、感情障害、境界性人格、アルコール依存症、子供の注意欠陥・多動性障害などの研究を促進します。新薬の研究開発の面では、全身PET/CTで全身薬物動態検査を行い、各臓器や組織による薬物の動的集積をリアルタイムで観察し、薬物の流れや毒性などを正確に測定・分析することで新薬の研究開発を大幅に短縮することができます。